小児期に行う矯正治療のことを、「第一期矯正歯科治療」もしくは「前期矯正歯科治療」と呼びます。それに対して、永久歯が生えそろった後に行う本格的な矯正治療のことを、「第二期矯正歯科治療」または「後期矯正歯科治療」と言います。
お子さんが矯正治療を受ける場合、第一期矯正治療(以下、第一期治療)を行っただけで、全治療が完了する場合があります。しかし、第一期治療を行った後に、さらに第二期矯正治療(以下、第二期治療)が必要になるケースも少なくありません。
このように、第一期治療だけで、お子さんの歯ならびや噛み合わせの問題がすべて良好になるとは限らないのです。
それでは、小児期から行う第一期治療は、どのような場合に必要になるのでしょうか? また、第一期治療には、どのような目的、もしくは意義があるのでしょうか?
第一期治療の目的や意義について考える際、お子さんの歯並びや噛み合わせの状態が、どのレベルにあるのかが非常に重要になります。すなわち、お子さんの歯並びや噛み合わせの状態によって、第一期治療の目的や意義が少し変わってくるのです。
矯正治療は、よく「山登り」に例えられます。
歯並びや噛み合わせに多くの問題を抱えている状態を、山の麓(ふもと)にいると見なし、歯並びや噛み合わせの状態が良くなるにつれ、山頂に向かって山を登っていると仮定するのです。
そして、予定通りの歯並びや噛み合わせになった状態を、山の頂上に到達したとするのです。
五合目に達していないケース
最初に考えるケースは、お子さんが山の中腹に達していない場合です。
山の五合目以下は黒い雨雲に覆われ、天候が悪く、非常に危険な状態です。そのため、雨雲の影響が及ばない位置まで、急いで山をかけ登る必要があります。
なぜなら、雨雲の中では、その場に留まることさえ困難だからです。悪天候のため、転倒したり、滑落してしたりする危険性があるからです。よって、そのような危険な場所からは、一刻も早く脱出し、安全な場所にまでたどり着く必要があるのです。
小児に行う矯正治療においても、これと同様のことが言えます。つまり、歯並びや噛み合わせに大きな問題がある状態で放置すると、深刻な問題に発展してしまう心配があるということです。そのため、放置できるレベルまで、歯並びや噛み合わせの問題を解決しておく必要があるのです。
たとえば、上アゴの前歯にデコボコがあって、上下の歯を噛み合わせると、下アゴが横向きに誘導される場合です。このような状態を放置すると、強く衝突する部分の歯が欠けたり、歯ぐきが下がって歯根が露出したりすることがあるのです。
さらに深刻になるケースでは、アゴ骨が横にずれた状態で成長した結果、アゴ骨が左右非対称の形態になってしまうこともありえるのです。
そのため、このように問題が深刻化する恐れがあるケースでは、早期に異常を取り除き、問題の悪化を未然に防止することが、第一期治療の目的となるのです。
五合目を越えているケース
次に考えるケースは、お子さんが五合目より上方にいる場合です。
お子さんは、雨雲より上の場所にいるので、危険性は少なく、比較的安全な状態といえます。なぜなら、お子さんは天候の良い状態にいるため、転倒したり、滑落したりする心配がないからです。
ただし、この場所に留まらず、少し登っておくことで、更に有利な状況に身を置くことができます。1つ目は、少し登っておくことで、楽に頂上まで達することができるということです。もう1つは、少し登っておくことで、更に高い別の頂上を目指すこともできるということです。
このように、すでに安全圏にいる場合でも、更に高い位置まで登っておくことで、非常に有利な状況に引き上げることができるのです。
矯正治療でも、同様のことが言えます。お子さんの歯並びや噛み合わせに大きな問題がない場合でも、第一期治療を行うことが有利に作用します。
なぜなら、第一期治療を行うことで、第二期治療を行う際の負担を軽くしたり、最終的な仕上がりの状態を高いレベルに引き上げたりすることができるからです。
たとえば、お子さんの歯ならびにデコボコがあるケースです。このような場合、第一期治療でお子さんのアゴ骨を広げることが非常に効果的です。
アゴ骨を拡大することで、本格的な第二期治療を行う際、強いチカラを加えることなく、弱いチカラで歯を並べることができるでしょう。または、歯をキレイに並べるために、歯を抜くことを免れられるかもしれないのです。
このように、お子さんの歯ならびや噛み合わせに大きな異常がない場合でも、第一期治療を行うことで大きなメリットを得ることができるのです。
まとめ
お子さんの現在の歯並びや噛み合わせの状況によって、第一期矯正治療を行う目的や意義が多少異なります。しかし、いずれの場合でも、第一期治療はお子さんにとって有益に作用します。
とくに、放置することで、歯並びや噛み合わせの状態大きく悪化する恐れがあるケースでは、第一期治療は必須といえるでしょう。
そのため、お子さんの歯ならびや噛み合わせが気になる方は、安心して治療を受けることができる歯科医院を見つけたうえで、矯正相談に行くようにしてください。