「海外留学する予定がありますか?」
最近は、矯正相談を行う際、このような質問をする必要がでてきています。なぜなら、海外に留学を希望していたり、実際に留学したりする人が増えているからです。
事実、わたしの周囲にも、留学を希望する人だけでなく、海外留学の経験者が複数います。海外留学をおこなう時期として、最も多いのが高校生や大学生の時期です。
しかし、高校生や大学生は、本格的な矯正治療を受けている患者さんの割合が多い時期でもあります。そのため、矯正治療を開始する際、海外留学の予定について確認しておくことが非常に大切なのです。
なぜなら、矯正治療を完了するためには、一般的に2年から2年半の治療期間が必要になるからです。そのため、海外留学を行う時期を考慮して、矯正治療を開始するタイミングを調整する必要があるのです。
留学による影響
海外留学の人気もあり、高校生もしくは大学生のうちに、海外留学を経験したいと考えている学生さんも少なくありません。
その海外留学が、数ヶ月程度のものであれば、とくに問題になることはありません。しかし、年単位の長期の海外留学の場合、注意が必要です。なぜなら、「いざ、海外留学に行くぞ!」というときに、矯正治療が完了している必要があるからです。
矯正治療が完了していない状態だと、非常に困ったことになるのです。たとえば、月に1回の割合で、留学先から帰国し通院することは可能でしょうか? 常識的にありえません。
また、留学先で転院する歯科医院をさがす際にも、いくつかの問題があります。まず、最初に挙げられるのが、矯正器具、とくに歯に貼りつけるブラケットについてです。
現在、日本で使用されているブラケットの中には、世界標準ではないものがあります。つまり、日本人に合わせた日本独自のブラケットがあるのです。
そのような日本独自のブラケットを用いて矯正治療を行っているケースでは、海外の歯科医院に治療の継続をお願いすることは非常に困難なのです。
海外の歯科医院への転院が困難である理由として、次に挙げられるのが、人種による治療方法の相違です。実は、モンゴロイドに分類される日本人と、ヨーロッパ系アメリカ人に代表されるコーカソイドの人種では、歯の形や骨格の形態が大きく異なります。
一般的に、モンゴロイドの治療は、コーカソイド人種の治療と比較してむずかしいと言われています。そのため、ヨーロッパ系アメリカ人に行う治療法を、日本人にそのまま適用することはできないのです。
よって、海外で転院できる医院を選択する際には、日本人またはモンゴロイドの特徴に合わせた治療法を行うことができる医院を探し出す必要があるのです。
このように、「海外だから、転院する医院が見つけにくい」という理由だけではなく、転院することを選択しづらい理由が存在するのです。
留学を控えている方へアドバイス
もし、あなたが海外留学を考えているなら、予定の時期から逆算して、少なくとも2年もしくは2年半前までには矯正治療を開始する必要があります。
なぜなら、本格的な矯正治療が完了するためには、通常2年から2年半の治療期間が必要だからです。
矯正治療が完了していない状態で留学することになった場合、「矯正装置を外し、治療を一時中断する」、もしくは「矯正装置はそのままの状態で留学し、留学終了後に治療を再開する」のいずれかの方法を選択する必要があります。
前者の場合、もう1度はじめから矯正治療をやり直すことになります。また、後者の場合、留学中に装置が壊れたり、ムシ歯が発生したりする心配があります。いずれにしても、患者さんにとってデメリットが大きいのです。
このように、海外留学を予定しているケースでは、その予定を考慮したうえで、治療計画をたてることが大切です。そして、もし留学予定が間近にせまっている状態なら、矯正治療は開始せず、留学が終了した後に改めて開始するようにするべきです。
実際に、海外からの留学生が来院した事例
以前、わたしの運営するクリニックに、ロシアからの留学生が来院しました。彼女の口の中には、ロシアの歯科医院でつけたブラケット器具とワイヤーが装着してある状態でした。
その日、突然、彼女の装置がこわれて、食事もできない状態になりました。そのため、日本人の友達が心配して、彼女を私のクリニックに連れて来たのです。
私のクリニックには、何種類かのブラケットを準備しています。しかし、彼女の口の中には、特殊なタイプのブラケットが装着してあります。
そのため、彼女の壊れたブラケットを、新しいものに交換することはできませんでした。食事の際に支障がないよう、最低限の応急処置しかしてあげることができなかったのです。
応急処置がすんで問題が解決すると、彼女は非常に喜んでくれました。さいわい、矯正装置のトラブルで、彼女が再び来院することはありませんでした。
しかし、この事例によって、「矯正装置がついた状態で海外留学することは、デメリットが大きい」ということを、改めて認識するようになりました。
まとめ
海外留学を考えている方は、矯正治療を開始する時期について十分考慮する必要があります。
なぜなら、矯正治療は、通常2年から2年半ほどの治療期間が必要だからです。そのため、留学まで期間がない状態で矯正治療をはじめると、治療が完了しない可能性が高いからです。
そのため、海外留学の予定がある方は、矯正相談の際、そのことを主治医に伝えることが大切です。そして、留学の時期を考慮したうえで、矯正治療を開始する適切な時期を決定するようにしてください。