矯正治療では、診断を行う際や装置を作る際に、歯型をとる作業が必要になります。
お子さんが嘔吐(えず)いたり、吐(は)いたりする様子をみて、かわいそうに思う親御さんも少なくないはずです。
「こんな苦しい思いをさせる必要があるのだろうか?」と、後悔する親御さんも少なからずいらっしゃることでしょう。
しかし、出っ歯(または、上顎前突症)や受け口(または、下顎前突症)で矯正治療が必要となるお子さんは、一般的なお子さんより、嘔吐いたり、吐いたりしやすいのです。
だから、小さい頃から矯正治療をおこなったり、訓練をおこなったりする必要があるともいうことができるのです。
ここでは、出っ歯や受け口のお子さんに「嘔吐反射(おうとはんしゃ)」が多い理由について説明します。
嘔吐反射(おうとはんしゃ)とは
嘔吐反射(おうとはんしゃ)とは、口に物を入れた際、嘔吐(えず)いたり、吐(は)いたりする反応のことです。
嘔吐反射が激しいお子さんでは、家庭での仕上げ磨きの際に歯ブラシを口に入れられなかったり、歯磨き剤が使用できなかったりするケースもあるのです。
また、出っ歯(または、上顎前突症)や受け口(または、下顎前突症)で矯正治療が必要となるお子さんの場合、この嘔吐反射が起こりやすいことを御存知でしょうか?
なぜなら、出っ歯や受け口の原因と、嘔吐反射の原因が一致しているケースが多いからなのです。
舌の機能異常による影響
敏感な上アゴ
人は、食事以外でも、1日400~500回も無意識のうちに唾液(または、つば)を飲み込んでいます。その際、舌が正常に機能しているケースでは、しっかりと上アゴの天井部分(または、口蓋)を押し上げます。
つまり、舌が正常に機能しているお子さんでは、1日400〜500回も舌で上アゴの刺激を行っているのです。
しかし、この舌の機能が不十分なお子さんの上アゴは、何年も刺激を与えないまま放置した状態です。そのため、その部分は非常に敏感な状態になっているのです。
ちょうど絆創膏やギブスで外からの刺激を断っていた部分が、非常に敏感になっていることを経験した方も多いはずです。
このように、舌の機能異常があるお子さんでは、上アゴが非常に敏感になっているため、歯科治療の時だけでなく、家庭での歯磨きの際にも吐き気をもよおすことが多いのです。
V字型の上アゴ
舌がしっかり機能しないと、上アゴはうまく成長しません。足や腕をしっかり動かしていないと、筋肉や骨がうまく成長できないのと同じことです。
そのため、天井部分が刺激を受けていない上アゴは、「V字型」になりやすいのです。つまり、横幅が狭くなり、縦長の状態です。
このように舌の機能が不十分で、V字型になっているケースでは、上アゴが縦長の格好になり、出っ歯の噛み合わせになるのです。
そして、上アゴが刺激を受けていない出っ歯のお子さんは、上アゴが敏感であるため、嘔吐反射が発生しやすいと言えるでしょう。
小さい上アゴ
舌がしっかり機能しないと、上アゴはうまく成長しません。そのため、天井部分を刺激していない上アゴは、成長が不十分で極端に小さい状態になっているのです。
このように舌の機能が不十分で、上アゴが極端に小さい格好になっているケースでは、上下アゴ骨の大きさのバランスが悪く、受け口の噛み合わせになるのです。
最近のお子さんの受け口では、下アゴの形態が大きいというよりも、上アゴが小さいことが原因であるケースがほとんどです。
このように、受け口のお子さんでは、上アゴが刺激を受けていないことが多く、嘔吐反射が発生しやすいと言えるでしょう。
V字型の歯並びを治療した事例
以前、わたしが運営するクリニックに、出っ歯の女の子が矯正相談にきました。
彼女の口の中を観察すると、上アゴは横幅が狭く、V字型になっていることが分かりました。
そこで、わたしは上アゴを十分に広げたあとで、舌の機能訓練を行うことを提案しました。
なぜなら、唾液を飲み込む際、女の子の舌が十分に持ち上がっていなかったからです。
12ヶ月ほどかけて、上アゴを大きく広げたあと、定期的に舌のトレーニングを行いました。
女の子が舌の訓練をしっかり行った結果、永久歯が生えそろった頃には、女の子の舌の機能も正常になり、歯ならびも整った状態になりました。
まとめ
お子さんの舌機能については、早い時期に一度専門家に見てもらうことがオススメです。なぜなら、舌の動きが不十分だと、お子さんの上アゴが十分に成長できないからです。
そして、出っ歯や受け口の状態が悪化しないうちに、矯正治療や舌のトレーニングを行うことが重要だからです。
よって、小さなお子さんがいらっしゃる方は、子どもの歯並び育成において実績のある歯科医院を、最初に選択することが大切です。そして、そのような舌の機能および上アゴの成長状況を確認できる歯科医院を見つけたうえで、相談にいくようにしてください。