乳歯が徐々に永久歯に交換しているお子さんのレントゲン写真を撮ると、すでにアゴ骨の中で歯並び異常が発生していることがあるので注意が必要です。
たとえば、「のう胞(ほう)」と言われる膿(うみ)の袋があるケースです。
この膿の袋は、特に上アゴの犬歯に発生することが多く、そのため、口の中に向かって伸び出している犬歯に悪影響を与える心配があるのです。
ここでは、のう胞によって起こる犬歯の異常と、その対応について説明します。
犬歯に発生する「のう胞(ほう)」とは
「のう胞(または、嚢胞)」は、口の中に発生する良性の腫瘍の1つです。
のう胞は袋状になっているため、「氷嚢(ひょうのう)」または「アイスパック」によく例えられます。ただし、中は氷ではなく、膿(うみ)が溜まっている状態です。
また、のう胞は生える前の犬歯に発生することが多く、犬歯の頭の部分を完全に覆っていることがほとんどです。
そのため、このように犬歯の頭を覆っている嚢胞のことを、特に「含歯のう胞(がんしのうほう)」と呼びます。
そして、この含歯のう胞が氷嚢と同じように犬歯の頭にのっかることで、その後の犬歯に悪影響を及ぼすことがあるのです。
のう胞によるトラブル
犬歯の根は比較的大きいため、口の中に伸び出す際の力も、他の歯と比べてもかなり強いことが分かっています。
しかし、犬歯の自然に伸び出す力だけで、のう胞の袋を突き破って動くことはできません。
なぜなら、のう胞がもつ袋は、皮膚や粘膜と同様の細胞からできているため非常に丈夫だからです。
そして、のう胞が犬歯の伸び出しを邪魔した結果、「犬歯がアゴ骨の中から出てこない」、または「アゴ骨の中で異常な向きになっている」といったトラブルが見られるようになるのです。
そのため、このような犬歯の異常がみられる際には、問題が重症化しないよう早期に対応することが重要になるのです。
のう胞の除去
のう胞の影響により、犬歯が口の中に伸び出てこない、もしくはアゴ骨の中で犬歯が異常な方向を向いているケースでは、「のう胞の除去」が必要です。
のう胞除去は、部分麻酔下で簡単に行うことができるため、極端に心配する必要はありません。
しかし、のう胞の取り残しには十分に注意する必要です。なぜなら、細胞の取り残しがあると、のう胞が再発する心配があるからです。
中には、のう胞除去が不適切であったために、何度も繰り返し除去治療を行っている事例もあるのです。
そのため、のう胞を除去する際は、取り残しなく、完全に取り除くことが非常に重要なのです。
実際に、のう胞除去を行った事例
以前、わたしが運営するクリニックに、受け口の女の子が矯正相談にきました。
学校検診で「受け口であること」を指摘されたため、心配した母親が連れてきたのです。
そこで、矯正治療に必要な検査を行うと、女の子の左上の犬歯に「含歯のう胞(がんしのうほう)」があることが分かりました。
そのため、わたしは受け口の治療と同時に、左上犬歯にあるのう胞を取り除くことを提案することにしました。
なぜなら、のう胞の影響によって、女の子の犬歯が異常な方向を向き、そのため隣の歯の根と重なっていたからです。
部分麻酔で左上ののう胞を取り除いた後、上アゴを大きくして女の子の受け口の治療を行いました。
しばらくしてレントゲン写真を撮影すると、受け口だけでなく、女の子の犬歯も正常な向きに改善していることがわかりました。
その後、すべての永久歯が生えそろうまで、定期的に経過観察を行っています。
左上の犬歯もキレイに並び、受け口も改善したことで、女の子は非常に喜んでいます。
まとめ
乳歯交換中のお子さんも、定期的にレントゲン写真を撮ることが大切です。
なぜなら、永久歯の伸び出しに悪影響を与える問題が、すでに発生している可能性があるからです。
そして、そのような問題がある場合、早期に適切な対応を行う必要があるからです。
よって、小さなお子さんをお持ちの方は、まずは子どもの歯並び育成の実績がある歯科医院を選択する必要があります。
まずは、そのような信頼できる歯科医院を見つけたうえで、定期的に検診を受けるようにしてください。