「過剰歯(かじょうし)」という言葉を聞いたことはありますか? 過剰歯とは、通常より余分にある歯のことです。
日本小児歯科学会の調査によると、過剰歯が発生する割合は、およそ100人中5人と比較的頻繁に発生するようです。
そして、この過剰歯のほとんどは、上アゴの前歯の間で見られます。このように上アゴの真ん中に現れる過剰歯を、特に「正中過剰歯(せいちゅうかじょうし)」といいます。
正中過剰歯は奇形であることが多く、小さく曲がっていることがほとんどです。しかし、小さな過剰歯があっても、前歯の歯並びに悪影響があることが分かっています。
そのため、過剰歯については適切な時期に抜歯する必要がありますが、その適切な時期とはいつなのでしょうか?
ここでは、過剰歯を抜歯する適切な時期と、その際に注意すべきことについて説明します。
正中過剰歯の影響
歯ぐきから頭を出している正中過剰歯もありますが、一般的には骨の中に埋もれて顔を見せないケースがほとんどです。
そして、前歯の根の間に存在する場合、前歯の歯並びに悪影響を及ぼすのです。中でも頻繁に見かけるのが、「前歯のすき間」と「前歯のねじれ」です。
生えた代わったばかりの前歯は、通常でも「ハの字」の状態で生えてきますが、さらに正中過剰歯があるとすき間が極端に大きかったり、前歯が90度ねじれていたりするのです。
前歯にすき間やねじれがある際の治療として、最初に行うのが「過剰歯の抜歯」です。しかし、正中過剰歯を抜くだけで、そのすき間とねじれが自然に改善するとは限りません。
特に、歯のねじれについては自然に改善することはほとんどありません。そのため、私のクリニックでは、正中過剰歯を抜歯した後に、矯正器具を用いて歯のねじれを改善するようにしています。
正中過剰歯を抜歯する時期
正中過剰歯を抜く際、もっとも注意すべきことは「前歯への影響」です。なぜなら、過剰歯が前歯の根に近接している場合、過剰歯の抜歯によって、前歯の根の成長に悪影響を及ぼす心配があるからです。
そのため、私のクリニックでは、小学3年生くらいまでまって過剰歯を抜くようにしています。なぜなら、その頃になると、前歯の根もかなり完成していると考えられるからです。
また、正中過剰歯の抜歯する際の特徴として、「抜歯の特殊性」が挙げられます。なぜなら、歯ぐきに埋まった状態の歯を、抜歯する必要があるからです。
そして、前歯の裏側にある歯ぐきをめくって、抜歯を行う必要があるからです。
そのため、正中過剰歯の抜歯は、前歯の裏側に通常より広い範囲で部分麻酔を行う必要があり、また必要な治療時間も長くなりがちです。
お子さんがあまりにも小さいと、部分麻酔の範囲や長い治療時間に耐えきれず涙がでてしまうのです。
しかし、これもお子さんが大きくなると、ある程度大変な処置もしっかりと受けられるようになります。
この抜歯の特殊性を考慮しても、過剰歯の抜歯を行う時期は小学校3年生くらいが適当と考えています。
実際に、正中過剰歯を抜歯した事例
以前、私が運営するクリニックに、前歯が生え替わり始めた男の子が、矯正相談にきました。男の子の前歯がひどく歪んでいることを、母親が心配して連れてきたのです。
そこで、私は、レントゲン写真を撮ることを提案することにしました。なぜなら、男の子の前歯の間に、正中過剰歯があることが疑われたからです。
実際にレントゲン写真を撮影して確認すると、前歯の間に正中過剰歯があることが分かりました。しかし、男の子の前歯の根は未完成だったので、根が成長するのを待って過剰歯を抜歯することにしました。
およそ1年が経過したころ、男の子の前歯はほぼ完成したことが確認できました。そのため、過剰歯の抜歯を行い、すぐにブラケット(または、矯正器具)を装着して、前歯をキレイに並べることにしました。
そして、5か月後には、予定どおり男の子の前歯をキレイに並べることができました。過剰歯の抜歯は辛かったとのことでしたが、前歯がキレイに並んだ様子に満足しているようです。
まとめ
お子さんの過剰歯を抜歯する時期については、主治医とよく相談することが大切です。なぜなら、抜歯の時期を誤ると、周囲の永久歯の成育に悪影響を与える心配があるからです。
よって、お子さんの過剰歯を心配されている方は、過剰歯があるお子さんの治療実績がある歯科医院を選択することが大切です。
そして、そのような安心して治療を受けられる歯科医院を見つけたうえで、治療相談に行くようにしてください。