近年、大人になって矯正治療を開始する方の割合が、増加傾向にあります。そのような大人の矯正治療で、最も重要になるのが「歯周病」についての配慮です。
なぜなら、歯並びに問題を抱えた成人の方は、同時に歯周病の問題を抱えているケースが少なくないからです。
そして、矯正治療を有効に用いれば、歯周病の状態を改善したり、歯周病によって生じた問題を改善したりすることができるからです。
そのため、矯正治療では、単に歯並びや噛み合わせを整えるだけではなく、歯周病によって発生した問題を改善したり、歯周病が進行しない環境をつくったりすることを目指します。
ここでは、その中でも、歯周病の影響により前歯に起こる問題と、その対応について説明します。
歯間乳頭
歯間乳頭(しかんにゅうとう)とは、歯と歯の間を満たしている歯ぐきのことです。とくに前歯の歯間乳頭がキレイだと、非常に健康的で明るいイメージを与えてくれます。
ただし、この歯間乳頭は、非常にデリケートで形が壊れやすいのが特徴です。なぜなら、この歯間乳頭の形態は、歯ぐきの弾力のみによって維持されているからです。
そのため、歯間乳頭を下から持ち上げている骨の高さが変わったり、歯間乳頭を横から支える歯の位置が変化したりするだけで、歯間乳頭の形態は変化する可能性があるのです。
歯周病による影響
歯周病とは、歯を支える骨と歯ぐきが、細菌感染によって減ってしまう病気です。歯を支える骨が下がる際には、歯間乳頭を持ち上げている部分の骨についても同様に下がることが予想されます。
そのため、歯ぐきの弾力だけでは歯間乳頭の形態が維持できず、歯と歯の間に大きなすき間ができてしまうのです。このすき間のことを、「ブラックトライアングル」と呼びます。
このすき間が大きくなると、真っ黒な三角形の塊(かたまり)に見えます。そのため、周囲の人には、歯の間のあちらこちらに黒い物体が挟まっているように見えてしまうのです。
矯正治療による影響
歯周病をもつ患者さんの歯のデコボコや歯のねじれを修正すると、ブラックトライアングルがさらに多く発生するようになります。
なぜなら、歯のデコボコや歯のねじれを改善した際、歯と歯の間の距離が変化してしまうからです。通常、歯のデコボコや歯のねじれを修正すると、歯と歯の間の距離は以前より離れてしまいます。
そのため、横からの支えがなくなり、歯間乳頭のサポートが不足してしまうのです。結果、歯ぐきの弾力だけではその形態を維持できず、歯間乳頭は小さくなってしまうのです。
ブラックトライアングルの治療
歯周病の影響により発生したブラックトライアングルについては、矯正治療中に改善することが可能です。その際に矯正治療で行うのは、「歯の幅を小さくすること」と「歯をよせること」の2つのことです。
最初に、前歯の側面を削って、歯の幅が細くなるように修正します。具体的には、歯と歯の間にテープ状のヤスリを通すことによって、歯の側面を落として形態修正するのです。
次に行うのが、歯を移動してお互いの歯を近づけることです。前歯の側面を形態修正したことで、すでに歯と歯の間にはすき間ができているはずです。そのすき間を閉じて、お互いの歯の距離が短くなるように近づけるのです。
このように歯と歯の間の幅が狭まることで、ブラックトライアングルの幅を効果的に狭めるだけではなく、歯間乳頭を横から持ち上げることができるようになります。
まとめ
矯正治療を行うことによって、単に歯並びや噛み合わせを整えるだけではなく、歯周病によって発生した問題を改善したり、歯周病が進行しない環境をつくったりすることができます。
よって、大人になって矯正治療を考えている方は、大人の矯正において実績のある歯科医院を選択することが重要です。
そして、そのような安心して治療を受けられる歯科医院を見つけたうえで、矯正相談に行くようにしてください。