こどもの頃に、転んで歯を強くうったり、友達の頭が前歯にぶつかったりした記憶はありませんか? 過去にこのような外傷を受けた歯には、何らかのダメージが残っている心配があります。
そのため、矯正治療で外傷を受けた経験がある歯にチカラを加えると、思わぬトラブルが発生することがあるので注意が必要です。
ここでは、「以前、歯に受けた外傷」が原因でおこる矯正中のトラブルについて説明します。
外傷による歯のダメージ
歯を強く打った際に起きるのが、歯の破折や脱臼などの外傷です。このような強い外傷を受けた歯は、かなりのダメージを受けています。
そして、そのとき受けたダメージが、何らかのカタチで後に影響することがあります。とくに、矯正治療で歯にチカラを加えた際には、歯の根に大きなチカラを加えるため、思わぬトラブルを招いてしまうことがあるのです。
外傷による血管のダメージ
根の先端は、外傷を受けた際にダメージを受けやすい場所です。なぜなら、歯を栄養する血管と、歯の神経が入り込んでいる場所だからです。
歯を強く打った際には、根の先にも大きな圧力が加わるため、血管を傷ついてしまうのです。しかし、血管には「回復」または「再生」する能力があることを、わたし達は知っています。
血管が受けたダメージが修復可能なレベルであれば歯は回復し、その後健康で維持することができるのです。しかし、この歯の外傷のダメージが、根の先端に残っている場合があります。
そして、将来矯正治療を受けた際に、この根の先端に残ったダメージが、思いがけないトラブルを招いてしまうことがあるのです。
歯の変色
過去に損傷を受けた歯の血管は、通常よりも細くなってしまっていることが予想されます。なぜなら、ダメージを受けた血管は、元の太さに回復できるとは限らないからです。
このように外傷で血管が細くなった歯に、矯正のチカラを加えるとどのような影響があるでしょうか? 私が、もっとも心配するのが「歯の貧血」です。
通常の場合でも、歯に矯正力を加えると、根の先端に圧力が加わることで血管が圧迫されます。外傷によって細くなった血管では、矯正のチカラによって圧力を加えると、完全に血流が不足してしまうことがあるのです。
そのようにして起こるトラブルが、「歯の変色」なのです。歯の血流が不足または途絶えてしまうことで、歯の中にある神経が壊死(えし)してしまうのです。
実際に、歯の変色が起きた事例
以前、わたしが運営するクリニックに、出っ歯の矯正を行った高校生の男の子がいます。彼の出っ歯は、比較的症状が軽いタイプだったので、歯を抜かずに治療を行いました。
実際にブラケット(または、矯正器具)を歯につけて、矯正治療は順調に進行していました。あと数回で終了という段階になって、彼の左の前歯に異変が起こっていることに気づきました。
周囲の歯の色より、わずかに黒ずんでいたのです。矯正中に歯が充血しても、その後しばらくすると健康な状態に回復するケースもあります。
しかし、残念ながら、彼の前歯は回復せず、ますます黒くなっている様子でした。そして、前歯の神経に生活反応が確認できなかったため、神経を取り除く治療とホワイトニング(または、漂白)を行っています。
後になって分かったことですが、彼の前歯には矯正治療前から先端に外傷の後が見られました。話をうかがうと、小学生の頃に、前歯を強くぶつけたことがあるそうです。
歯並びと噛み合わせは、予定どおりキレイになったことで彼女は満足しています。しかし、不可避なトラブルではありましたが、彼に不快な思いをさせてしまったことを心苦しく思っています。
まとめ
外傷を受けた経験がある方は、矯正治療を開始する際には、主治医に事前に伝えることが大切です。なぜなら、矯正治療中に、歯の変色トラブルが発生する危険性があるからです。
外傷の経験がある方は、トラブルが発生した際にも適切に対応してくれる歯科医院を、選択することが重要です。そして、そのような安心して治療を受けられる歯科医院を見つけたうえで、矯正治療を開始するようにしてください。