矯正治療で、不適切に大きいチカラをかけて歯を動かすると、強い痛みが発生するだけでなく、その他の深刻なトラブルが発生することが心配されます。
その中の1つに、「歯の変色」があります。矯正治療中の歯に何らかの異常が発生し、歯の神経が「壊死(えし)」してしまうのです。通常、痛みはありませんが、歯が黒ずんだり、根の先端に膿(うみ)が溜まったりすることで発見されます。
ここでは、矯正治療中に突然発生する歯の変色について説明します。
歯を栄養するもの
身体の他の部分と同様に、歯も血管から栄養を受けています。ただし、歯には、他の部分と比較してとても特殊な点があります。
それは、「血管が少ない」「血管が細い」ということです。通常は、根の先端から歯に入り込む血管によってのみ、歯は栄養されています。通常その血管の数は前歯で1本、奥歯でも3本ほどです。
この歯を栄養する血管が少ないということが、矯正治療にどう影響するのでしょうか? 実は、歯を栄養する血管が少ないため、矯正治療では歯が貧血状態にならないよう配慮する必要があるのです。
血管が少ない
歯を栄養する血管が細く少ないことで起こる問題の1つが、「歯の貧血」です。矯正治療で歯を動かす際には、根の先端も大きく移動します。
この際、根の先端が動きが早すぎたり、加わるチカラが強すぎたりすると、根の先端から入る血管を圧迫し貧血状態にしてしまうのです。
歯を栄養する血管の血流が極端に少なくなったり、途絶えたりすると、その歯の神経は徐々に弱り、そして最終的には壊死(えし)してしまいます。
これと似た状況が、「脳梗塞(のうこうそく)」です。脳血管がつまって血流がなくなると、脳の機能がストップしたり、脳の一部が壊死したりすることを御存知のはずです。
血管が細い
このように、歯を栄養する血管は少なくしかも非常に細いため、矯正治療では弱いチカラを歯に加えて、ゆっくりと歯を移動します。
しかし、血管の太さについては、それぞれ個人差があります。中には、歯を栄養する血管が極端に細いという患者さんが必ずいるはずなのです。
そのため、1,000人にとって大丈夫なチカラの大きさ、もしくは速度で歯を動かしていたとしても、、たった1人の患者さんに「歯の変色トラブル」が起きてしまうケースがあるのです。
実際に、歯の変色が起きた事例
以前、わたしが運営するクリニックに、出っ歯の矯正を行った高校生がいます。彼の出っ歯は、比較的症状が軽いタイプだったので、歯を抜かずに治療を行いました。
実際にブラケット(または、矯正器具)を歯につけて、矯正治療は順調に進行していました。あと数回で終了という段階になって、彼の左の前歯に異変が起こっていることに気づきました。
周囲の歯の色より、わずかに黒ずんでいたのです。矯正中に歯が充血しても、その後しばらくすると健康な状態に回復するケースもあります。
しかし、残念ながら、彼の前歯は回復せず、ますます黒くなっている様子でした。そして、前歯の神経に生活反応が確認できなかったため、神経を取り除く治療とホワイトニング(または、漂白)を行っています。
今回の治療は、軽度の出っ歯の治療であったため、不適切に大きなチカラを加わることはないはずですが、このようなトラブルが発生することもあるのです。
歯並びと噛み合わせは予定どおりキレイになりましたが、彼に不快な思いをさせてしまったことを心苦しく思っています。
まとめ
矯正治療を無事に完了するためには、「適切な診断」「適切な治療計画」「適切な処置」これらが重要になります。
ただし、矯正治療では、すべてを適切に行っていたとしても、トラブルが発生する可能性があります。それは、非常に稀(まれ)ですが起こりうることなのです。
そのため、矯正治療を開始する際には、起こりうるトラブルについての説明をキチンと受けてから、矯正を開始するかどうか判断するようにしてください。
そして、万が一、トラブルが発生した場合でも、適切に対応してくれる歯科医院を見つけたうえで、矯正治療を開始するようにしてください。