人類が進化するにつれ、人の口にもさまざまな変化が起こっています。たとえば、アゴ骨が小さくなったり、親知らずが生まれつきなかったりするという変化です。
中には、親知らず以外の歯が通常よりも少ないというお子さんが徐々に増加しています。ここでは、そのような「歯の欠如(または、本数不足)」が起こった際、とくに上アゴの前歯が不足している場合の対応について説明します。
上アゴ側切歯の欠如
上アゴでの歯の本数不足は、側切歯(そくせっし)部分で頻発します。側切歯とは、犬歯の隣にある前歯のことです。
この部分に歯が不足すると、「正中のズレ」の問題が発生します。上アゴの真ん中の位置が左右いずれかに大きくズレたり、傾いたりするのです。
上アゴの正中に大きなズレがあると、周囲の人も一目で気づくようになります。なぜなら、正中のズレは目立ちやすく、顔が非対称に見えるケースが少なくないからです。
上アゴ正中のズレを改善する方法
側切歯の不足による正中のズレを修正するためには、「歯の本数を左右そろえる」ことが大切です。そのための手段として、大きく2つの方法があります。
それは、「歯の本数を増やす方法」と、「歯の本数を減らす方法」の2つです。それぞれ、患者さんの骨格のタイプに合わせて、適切に治療方法を選択することが重要です。
歯の本数を増やす方法
歯の本数を増やす方法とは、歯が不足している部分にスペースを積極的につくる方法です。その後、できたスペース部分に、人工の歯(または、差し歯)をいれる方法です。
このように不足する側切歯を人工的におぎなうことで、歯の数を左右でそろえることができます。また、左右の歯の数を合わせることで、正中の位置も改善するのです。
ただし、この本数を増加する方法が有効なのは、上下のアゴが正常な位置関係にあるタイプの患者さんに限られます。たとえば、出っ歯(または、上顎前突症)の患者さんに、この方法を用いると、出っ歯がさらに悪化します。
そのため、出っ歯タイプの患者さんは、次の「歯の本数を減らす方法」を選択する必要があります。
歯の本数を減らす方法
歯の本数を減らす方法とは、反対側の側切歯を抜歯するという方法です。抜歯によって、歯の数を減らすことで、歯の本数を左右でそろえることができます。
このようにすることで、上顎の正中の位置を正しく改善することができるのです。ただし、この歯の数を減少する方法は、出っ歯タイプの患者さんにのみ有効です。
なぜなら、側切歯を抜歯してできたスペースを閉じる際、前歯の位置が後方に移動するからです。たとえば、上下アゴが正常な位置関係にあるタイプの患者さんに、この方法を用いると受け口(または、下顎前突症)の噛み合わせになってしまうからです。
実際に、前歯の本数不足を治療した事例
以前、私が運営するクリニックに、出っ歯の治療を希望する女子中学生が矯正相談にきました。彼女の口を観察すると、右上の側切歯が不足しており、それに伴って上顎の正中が大きく右側にズレていることが分かりました。
そこで、私は「左の側切歯を抜いて、歯の数を左右そろえる治療」を提案することにしました。なぜなら、この方法が、上の前歯を後方に引っ込めることができる治療法だったからです。
彼女に治療法について説明すると、すぐに治療開始することを決心しました。なぜなら、彼女自身も真ん中のズレを、以前から気にしていたからです。
左上の側切歯を抜いた後で、全体にブラケット(または、矯正器具)をつけて、矯正治療を開始しました。そして、20ヶ月後には、予定どおりキレイな歯並びと噛み合わせに仕上げることができました。
出っ歯だけでなく、気になっていた正中の位置も改善できたことで、彼女は非常に満足しています。
まとめ
上アゴ側切歯が欠如しているケースでは、噛み合わせのタイプに応じて2つの対応方法があります。そのため、事前に検査を行って、どちらの方法が適切か判断することが非常に重要です。
上アゴ側切歯が欠如している方は、歯の本数不足について治療実績がある歯科医院を選択することが重要です。そして、そのような安心して治療を受ける歯科医院を選択したうえで、矯正相談にいくようにしてください。