お子さんの顎(あご)の形態が、徐々に小さくなってきていることが知られています。そのため、最近のお子さんでは、永久歯が骨の中にある状態で、永久歯の向きや位置に大きな異常を認める場合が少なくありません。
特に、お子さんの上アゴの犬歯については注意が必要です。この歯には、もっとも方向異常が発生しやすく、また深刻なトラブルの原因になることが少なくないからです。
ここでは、お子さんの「犬歯の方向異常」と、その対応について説明します。
犬歯の方向異常による影響
以前、私は犬歯の方向異常には、アゴ骨を拡大することが有効であることを説明しました。しかし、アゴ骨を拡大しただけで、すべての犬歯の方向異常が改善されるわけではありません。
上アゴの拡大にうまく反応しなかった犬歯に対しては、速やかに別の方法で向きを正しく修正する必要があります。なぜなら、犬歯の方向異常をそのまま放置すると、隣の前歯の根を破壊する可能性があるからです。
犬歯の方向異常によって起こる歯根のトラブルは、深刻な状況をまねくケースが多いため、早期に治療開始することが大切です。
犬歯の方向異常に対する治療
上アゴの形態を広げることで、骨の中にある犬歯の向きや位置が改善することが期待できます。しかし、残念ながら、犬歯の方向異常のすべてが、このアゴ骨の拡大で改善されるわけではありません。
上アゴを拡大するだけで改善しなかった犬歯については、「開窓(かいそう)処置」および「けん引処置」を行うことによって改善する必要があります。
犬歯の開窓処置
開窓処置とは、犬歯を露出するために行う外科処置のことです。部分麻酔を行ったあとで、犬歯を覆っている歯ぐきと骨の一部を取り除き、犬歯を露出するのです。
このように開窓処置を行うことで、犬歯は障害物がない場所へ、自然に方向転換するようになります。つまり、隣の歯の根から、犬歯が離れる格好になるのです。
このように、開窓処置後には、犬歯が隣の歯の根から自然に離れることが期待できます。次のけん引処置は、この犬歯の自然な動きが終了した後に開始するようにします。
犬歯のけん引処置
開窓処置によって犬歯の一部が露出すると、その部分に矯正器具を装着することができます。そして、その矯正器具にゴムをかけることで、犬歯を適切な方向に引っ張ることができるのです。
ただし、犬歯をけん引する際は、2つの段階を順番に行います。最初は、「犬歯を隣の歯の根から遠ざけるステップ」です。犬歯を離すことで、隣の歯の根を破壊することを確実に避けることができます。
しかし、このステップは、犬歯を引っ張る方向に注意しながら慎重に行います。なぜなら、犬歯をけん引する方向を間違えると、隣の歯の根に深刻な問題を起こす可能性があるからです。
次は、「犬歯を正常な位置に誘導するステップ」です。隣の歯の根から犬歯を十分に離すことができたため、あとは本来の位置まで一気に誘犬歯を誘導します。
実際に、犬歯の開窓およびけん引処置を行った事例
以前、私が運営するクリニックに、小学生の女の子が矯正相談にきました。かかりつけの小児歯科で、女の子の犬歯が異常な方向を向き、隣の前歯の根に衝突している様子が確認されたからです。
そのため、私は上顎拡大装置を使って、アゴ骨の形態を大きくすることを提案することにしました。なぜなら、上アゴを広げることで、犬歯の方向異常が改善されるというデータがあったからです。
治療方法について説明し、上アゴの拡大治療をすぐに行いました。上アゴを5mmほど拡大し、半年後に再びレントゲン写真で確認すると、左側の犬歯の向きが改善していることが分かりました。
しかし、右側の犬歯については、隣にある前歯の根に衝突している様子が確認されました。そのため、さらに開窓およびけん引処置を行うことにしました。
開窓処置で犬歯を露出させたあと、ゴムとワイヤーを使って犬歯の誘導を行いました。小さな女の子にとって開窓処置は、かなり辛かったようですが、無事に犬歯の方向異常を改善できたことにホッとしています。
まとめ
犬歯の方向異常については、早期に対応することが非常に重要です。なぜなら、対応が遅いと、隣にある前歯の根を破壊する危険性があるからです。
しかし、この骨の中にある犬歯の異常を、保護者の方が見つけることはできません。確認するためには、レントゲン撮影を定期的に行って診査することが必要です。
そのため、小さなお子さんをお持ちの方は、子どもの歯並びの育成について実績のある歯科医院を、まずは見つけることが重要です。そのような歯科医院を探したうえで、定期に検診を受けるようにしてください。