「矯正治療は痛い」と、聞いたことはありませんか?
矯正治療を経験した患者さんに、治療後ではなしを聞くと、「青いゴムが一番痛かった」と口をそろえます。「歯を抜いたこと」と答える患者さんは、ほとんどいません。
この歯を抜くよりも、強烈に印象が残っている「青いゴム」とは、いったい何なのでしょうか? その正体は、「セパレーションゴム」です。
ここでは、セパレーションゴムによる痛みとその対処について説明します。
セパレーションゴムとは
奥歯に矯正装置を装着する際には、バンドと呼ばれる金属の帯環(たいかん)を装着するのが一般的です。なぜなら、食事の際、奥歯には大きなチカラが加わるからです。
そのため、通常の歯に貼りつけるタイプの矯正装置では、簡単に外れる心配があるからです。帯環の厚みは0.3mmほどですが、歯と歯の接触が強いと押し入れることはできません。
そのため、使用するのがセパレーションゴムです。セパレーションゴムとは、奥歯の歯と歯の接触を緩めるために用いる青い輪ゴムのことです。
この、セパレーションゴムを1週間ほど歯と歯の間に装着することで、0.3mm厚の帯環がスムーズに装着できるようになります。しかし、このゴムを装着する1週間が、多くの人にとってつらい期間になるのです。
セパレーションゴムによる痛み
「クサビ」というものを、御存知でしょうか? クサビとは、木割りや石切りの際に用いるV字形の金具のことで、すき間に打ち込むことで大木や岩を割ることができます。
セパレーションゴムは、奥歯に対してクサビと同様に作用します。とくに、帯環を装着する歯の前後にゴムを装着するため、歯と歯の間を押し開くだけでなく、奥歯を引き抜く方向にも力が働いてしまいます。
そのため、セパレーションゴムをつけた奥歯の周囲には、炎症が強く発生します。そして、奥歯は浮き上がった状態になっているため、噛み合わせをした際には、極端に痛みを感じるようになるのです。
痛み対する対処法
セパレーションゴムには、一般的に1週間ほど装着します。このゴムによる痛みは、じっとしていての痛みではなく、奥歯を噛み合わせたときにだけ発生する痛みです。
この噛んだ時の痛みは、通常3日ほどで落ち着きますが、歯と歯の接触が強い人、噛む力が強いタイプでは、痛みが強く発生する傾向があるようです。
私のクリニックでも、毎年300人くらいの人にセパレーションゴムの装着を行います。セパレーションゴムが理由で、途中でリタイアする人は今のところいません。
セパレーションゴムによる痛みに対しては、残念ながら痛み止めと、柔らかい食べものでしのぐしか方法はありません。
まとめ
矯正治療中の痛みやトラブルのほとんどは、治療開始の時期に集中します。中でも、最も痛い処置がセパレーションゴムによる痛みです。
しかし、「青いゴムが一番痛い」「これ以上痛むことはない」と分かれば、勇気も涌いてくると思います。まずは3日間を、痛み止めと軟食で何とかのりきるようにしましょう。