「指しゃぶり」は、子どもの自立への第一歩として、発達心理学の分野でも重要視されています。指しゃぶりは、子どもの感情を立て直す手段として重要な役割を果たしているのです。
しかし、適切な時期に指破りを上手く卒業できないと、歯並びや噛み合わせに影響がでることがあります。さらに悪くすると、顎の成長障害や、口の機能障害の原因になることもあるので注意が必要です。
ここでは、お子さんの指しゃぶりによる影響と、その対策について説明します。
指しゃぶりの影響
前歯への悪影響
指しゃぶりの時間が長いと、前歯の歯並びに影響が現れ、出っ歯の状態になります。さらに悪化すると、口を閉じたときに前歯が上下に接触できない状態、いわゆる「開咬症」になります。
開咬症は、単に前歯の歯並びの問題だけではありません。そのまま放置すると、顎の成長に悪影響を与えるだけではなく、お子さんの機能障害にも繋がるからです。
たとえば、食べ物を飲み込む時の動作です。開咬症のお子さんは、ものをスムーズに飲み込むことができません。毎回、大きな塊を丸呑みするような格好で飲み込もうとするのです。
顎骨へ悪影響
指しゃぶりは、「指吸い」とも言われます。なぜなら、単に指をくわえるだけでなく、引圧をかけて吸い上げていることが少なくないからです。
このように、指を強く頻繁に吸っていると、左右の奥歯が内側に寄るようになってしまいます。なぜなら、強く引圧をかけることで、頬粘膜が内側に吸い寄せられるからです。
そのため、指吸いを行っているお子さんの顎骨は、非常に狭くなってしまっていることが非常に多いのです。
奥歯の噛み合わせへの影響
指吸いの影響がさらに悪化すると、奥歯の噛み合わせに悪影響が及ぶことがあります。頻繁に目にするのが、「交叉咬合」や「V字歯列」などの歯並び異常や噛み合わせ異常です。
上顎の幅が極端に狭くなり、下の奥歯と噛み合うことができず、すれ違ってしまっている状態です。
最も注意したいのは、奥歯の交叉が、左右どちらかに現れる状態です。この場合、お子さんは下顎を真っ直ぐに閉じることができず、常に顎を横にズラした位置に置くようになります。
このように常に顎を横にずらした格好でいると、お子さんの成長とともに、顔の非対称が強くなってしまう恐れがあるので注意が必要です。
指しゃぶりに対する対応
〜3歳までの対応
指しゃぶりの癖は、1歳くらいから徐々に頻度を少なくして、3歳くらいまでに卒業することが目標です。この時期に行うことは、無理に口から指を外すことではありません。
お子さんの関心を別のことに向けて、指しゃぶりをする頻度を可能な限り少なくすることです。たとえば、手を大きく動かすような遊びを一緒にやることもオススメです。
3歳からの対応
3歳過ぎでまだ指しゃぶりがある場合、私のクリニックでは積極的に介入したいと考えています。しかし、その場合でも、褒めたり励ましたりしながら焦らないことが最も大切です。
親が過度に神経質になったり、無理にやめさせたりすることで、お子さんの精神衛生に悪影響がでては元も子もないからです。
そのため、お子さんの同意が得られれば、指にバンドエイドを貼ったり、女の子であればネイルしたりすることから初めています。
しかし、特に寝ている最中に強烈な指しゃぶりをする子どもでは、なかなか効果がありません。
それでも、あせったりせず、指に包帯を巻いたり、ぬいぐるみを抱いて寝るなど、子ども本人と相談しながら様々なことを試すようにしています。
学童期からの対応
上顎の前歯に永久歯が生え始めるころに、まだ指しゃぶりがある場合、私のクリニックでは矯正装置を積極的に用いるようにします。
たとえば、「口腔習癖除去装置」と呼ばれるものです。装置の一部に突起があり、指を口に入れようとすると、その突起が邪魔するのです。
セメントで口の中に固定するものと、取り外しできるものがありますが、私のクリニックでは固定式のものを最初に選択します。
なぜなら、取り外しできるものは、無意識のうちに外してしまうことが多いからです。
そのため、固定式の装置で指しゃぶりを改善したあとで、取り外しできるタイプに交換するようにしています。
実際に指しゃぶりの治療を行った事例
以前、私が運営するクリニックに、開咬症の女の子が矯正相談にきました。女の子の歯並びに問題があることを心配して、母親が連れてきたのです。
女の子の口の中を見ると、顎幅が非常に狭く、前歯が大きく倒れた開咬症の状態になっていることがわかりました。そこで、私は、顎骨を拡大装置で広げたあと、指しゃぶり防止装置を用いて癖を修正することを提案しました。
なぜなら、女の子の指しゃぶりが原因で、顎幅が狭く前歯が開咬症の状態になっていることが分かったからです。この装置を、8ヶ月使用することで、指しゃぶりは無くなり、顎幅も十分に大きくすることができました。
その後、取り外しタイプの装置を長期的に使用したことで、指しゃぶりの再発もなく、キレイな前歯の歯並びを維持できています。
まとめ
お子さんの指しゃぶりについては、長期的な視点に立って対応することが大切です。
なぜなら、将来指しゃぶりが顎骨の成長に悪影響を与えるだけでなく、無理にやめさせようとするとお子さんの精神衛生に影響を与える心配があるからです。
お子さんの指しゃぶり癖を見つけた方は、まずは「子どもの噛み合わせ育成」において実績のある歯科医院を選択することが大切です。
そして、そのような指しゃぶりのお子さんについて指導できる歯科医院を見つけたうえで、相談に行くようにしてください。