「床矯正(しょうきょうせい)」は安全でしかも取り扱いが簡単な治療であるため、多くのお子さんの治療に用いられています。
しかし一方で、歯科医師が「床矯正の特徴を十分に理解していないため」に、満足のいく治療結果が得られないといったトラブルもあるようです。
どんな治療法や装置にも、それぞれ利点や欠点があります。そのため、お子さんの矯正治療を行う際には、主治医と十分に相談して開始することが大切です。
子どもの床矯正とは
床矯正は、子どものアゴを広げるために用いる矯正装置です。歯のデコボコや、噛み合わせが深い場合の治療で効果を発揮します。
床矯正の最大の特徴は、「装置の取り外しができる」ことです。このことは、お子さんだけでなく親御さんにも安心感を与えます。なぜなら、何らかのトラブルがあった場合でも、ご家庭で簡単に対応することができるからです。
その他「取り扱いが非常に簡単である」ことも、床矯正のもう1つの特徴です。装置のネジを1週間に1度だけ回すだけでいいので、どなたでも使用することができるでしょう。
床矯正のメリット
取り外しができる
床矯正の最大のメリットは、「装置を取り外すことができる」という点です。このことは、セメントを用いて口の中に接着する固定式装置と比べて、多くの点で有利に働きます。
例えば、食事です。食事の際には、矯正装置を外すことができます。そのため、通常通りおいしく食事することができます。
また、食後の歯磨きも簡単です。口の中に矯正装置が入っていないため、普通に歯ブラシをあてるだけで歯垢(しこう)を落とすことができるのです。
このように、お子さん自身で矯正装置を外すことができるだけでも、安心して矯正治療を受けることができるのです。
痛みが少ない
床矯正で、乳歯に加えるチカラは非常に弱いものです。さらに、1週間に0.2mmという、非常にゆっくりしたペースでアゴを広げます。
つまり、固定式装置と比較して、床矯正で加えるチカラは非常に弱いのです。そのため、お子さんが床矯正を痛がることはほとんどないのです。
トラブルが少ない
床矯正で用いる装置は、シンプルで非常にしっかりとした構造になっています。
そのため、舌や頬の粘膜を傷つけたり、装置が変形したりする心配がありません。もちろん、固定式の装置のように、途中で外れたりすることもないのです。
たとえ、何か問題が発生した場合でも、お子さん自身で外すことができます。そのため、小さいお子さんに安心して用いることができる装置と言えます。
床矯正のデメリット
治療期間
床矯正は、弱い力をゆっくりとしたペースで加えるため、治療期間が長くかかる場合があります。そのため、奥歯の交換時期が迫っているお子さんの治療には、床矯正は不向きでしょう。
なぜなら、床矯正は、奥歯の乳歯にチカラを加えることによって行う治療だからです。そのため、乳歯が動揺して抜けそうな状態では、力を加えることができないからです。
お子さんの協力度
床矯正で用いる装置は、お子さん自身で取り外しができます。このことは、一般的にはメリットですが、場合によってはデメリットに働く場合もあります。
なぜならば、お子さんが装置をキチンとはめなかったり、家庭でネジ回しができていなかったりした場合、治療がまったく進まないからです。そのため、床矯正は、患者さんの協力に頼った治療法であるといえるでしょう。
装置の変更
床矯正だけで、矯正治療が完了することは稀(まれ)です。多くの場合、床矯正以外の装置を用いる必要があります。
例えば、前歯の整列です。床矯正で歯が並ぶためのスペースを作ったとしても、お子さんの前歯が自然と並ぶとはかぎりません。
そのため、歯の表面に矯正装置(ブラケット)を付けたり、ワイヤーを付けたりして前歯を整列する必要があります。ただし、すでに床矯正によって状態は改善しているため、短期間で前歯を並べることができるでしょう。
実際に、床矯正で治療を行った事例
以前、私が運営するクリニックに、前歯にデコボコがある女の子が母親に連れられて矯正相談にきました。母親は早期に矯正治療を始めることを希望していましたが、女の子には矯正治療に対して恐怖心がある様子でした。
そのため、私は床矯正を提案することにしました。なぜなら、床矯正は取り外しもでき、目立ちにくいために、女の子が受け入れてくれると判断したからです。
床矯正について、女の子に紹介すると、しぶしぶですが矯正治療を開始することを納得しました。「床矯正なら、自分もできるかもしれない」と女の子は感じたに違いありません。
実際に床矯正をおこなったのは、約1年ほどです。なぜなら、女の子の前歯のデコボコの程度が強かったために、途中から固定式の装置に変更せざるを得なかったからです。
しかし、この時の女の子は、矯正治療に対する恐怖や心配はほとんどありませんでした。そのため、固定式装置を使って残りの治療を完了することができました。最終的には、歯のデコボコもキレイになり、女の子も母親も喜んでいます。
このように、床矯正のメリットを利用して、矯正治療に恐怖心のあるお子さんでも治療を行うことができます。なせなら、少しずつ慣れることによって、恐怖心も薄れ、自信がついてくるからです。
まとめ
お子さんの歯のデコボコの治療には、床矯正が効果的です、床矯正は、比較的弱い力をゆっくりとしたペースで加える治療法なので、お子さんにとって負担の少ない治療といえます。
ただし、床矯正の経過によって、他の矯正装置へ適切に変更する判断が大切になります。なぜなら、床矯正に限らず、全ての治療法は万能ではないからです。
そのため、お子さんの歯のデコボコが気になっている方は、まずは子どもの矯正治療において実績のある歯科医院を選択することが大切です。
そして、そのような安心して治療を任せることができる歯科医院を見つけたうえで、矯正相談に行くようにしてください。