矯正治療で動かした歯は、元の状態に戻ろうとする傾向があります。そのため、矯正治療後には歯が移動しないように維持しながら、「歯並びが安定するための期間」を設ける必要があります。
しかし、歯並びが安定するための期間を十分に設けたとしても、歯が完全に動かなくなったわけではありません。その後も歯は徐々に移動するのです。
中でも、下あごの前歯は、歯のゆがみやデコボコが再発しやすい部位です。神経質なタイプの患者さんであれば、わずかなズレがものすごく気になってしまう可能性もあります。
そのため、下の前歯の歯並びを積極的に維持するためには、何らかの対策を行う必要があります。
前歯のゆがみやデコボコを長期的に防ぐ手段として、いくつかの方法が挙げられます。ここでは、その中でも「前歯を歯の裏側から固定する」ことによって、前歯の歯並びを長期的に保つ方法について説明します。
前歯の並びが崩れやすい理由
下の前歯が動きやすい理由には、いくつかの原因が考えられます。
まず1つ目の理由は、前歯の根が非常に細いことです。なぜなら、歯にねじれやひねりを加えようとする力に対して、細い根は抵抗できないからです。
2つ目は、噛む力の影響です。下の奥歯は、わずかに前傾しています。そのため、噛む力が奥歯に加わると、結果として奥歯が前歯を押すようになるのです。
3つ目は、骨の新陳代謝です。歯を支える骨は、一生に渡って再生を繰り返します。歯を支える部分が常に変化しているため、同じ場所に同じ姿勢で歯がとどまることはあり得ないのです。
前歯のデコボコを長期的に予防する方法
長期的に前歯の歯並びを維持するためには、リテーナー(保定装置・ほていそうち)を使い続けることが有効です。リテーナーとは、矯正治療後には歯が移動しないように維持するための矯正装置のことです。
リテーナーには、固定式タイプのリテーナーもしくは、取り外しできるタイプのリテーナーがあります。矯正治療が終了した最初の2年は、2つのタイプのリテーナーを同時に使用します。
歯並びが安定した後には、取り外しできるタイプのリテーナーを止めて、固定式リテーナーのみを歯の裏側に残すことを希望する人が多いです。なぜなら、固定式リテーナーの方が違和感も少なく、前歯の並びを確実に維持できるからです。
固定式リテーナーで、前歯の並びを維持した事例
私の運営するクリニックに勤務する歯科衛生士のケースです。歯のデコボコが気にしていた彼女は、就職して2年目に矯正治療を受けることを決心しました。
彼女が選択したのは、歯の表面に矯正器具を付けてワイヤーで歯を移動させる一般的な矯正治療です。約2年の治療期間で、矯正治療は無事に終了しました。
矯正治療で歯を動かした後も、歯並びを維持する装置(リテーナー)をしっかりと使用していたので、彼女の歯並びと噛み合わせは非常に安定しています。
歯並びが安定するための期間が十分に経過した後で、彼女は取り外しできるタイプのリテーナーは止めることにしました。ただし、前歯の裏側の装置は彼女の希望もあり付けたままの状態です。
そのことによって、矯正治療後何年も経過していますが、彼女の前歯の歯並びはしっかりと並んだ状態が維持しています。
まとめ
矯正治療後には、リテーナーを使って、歯並びと噛み合わせを安定させることが重要です。ただし、歯の動きが安定した後も、前歯にはねじれやデコボコが発生する心配があります。
なぜなら、下あごにある前歯の周囲には、「前歯を動かす要因」がたくさん存在しているからです。
そのため、長期的に下あごの前歯の並びを維持したい方には、固定式のリテーナーがオススメです。
なぜなら、前歯を歯の裏側から固定する簡単な方法であるため、トラブルが少なく、効果が確実だからです。