手術が不可欠　歯列矯正単独では治せない「噛み合わせ異常」

矯正治療は、歯ならびや噛み合わせの不正を整えるために非常に有効な手段です。ただし、あごの骨に大きな異常があった場合、矯正治療単独で解決することは難しくなります。

とくに、あごの骨格的な異常が認められるなら、「外科的矯正治療」が必要です。外科的矯正治療を用いれば、噛み合わせの問題だけでなく、顔が変形しているという問題についても解決することができます。

「しゃくれ顔」「顎がない」「顔がゆがんでいる」などといった顔の問題も、外科的矯正治療も用いることで改善することができるのです。

ここでは、「外科的矯正治療」が必要となる不正咬合（上下の歯が適切にかみ合っていない状態）のタイプについて説明していきます。

外科的矯正治療とは

「外科的矯正治療」とは、矯正治療だけでなく、全身麻酔で行う外科手術を併用する治療の方法です。矯正治療単独では改善が難しい場合、もしくは顔の変形の改善が必要となる場合に、この「外科的矯正治療」が必要になります。

その例として、下あごが大きく突出した受け口の治療が挙げられます。受け口の治療では、外科手術で下あごを後ろに下げるようにします。そうすることで、かみ合わせだけでなく、顔の印象も改善することができるのです。

以前、私が運営する歯科医院に、ひどい受け口の成人女性が来院されました。彼女は、一般歯科に虫歯の治療に行ったときに、「外科的矯正治療」について初めて聞いたそうです。

そして、学生時代から自分の長い顔にコンプレックスを感じていた彼女は、外科的矯正治療に大きな期待を持ってやって来たのです。

外科的矯正治療についての治療例を見せると、彼女は非常に喜んだことを覚えています。実際に、外科的矯正治療を受けて、彼女のコンプレックスはすっかり払拭したようでした。矯正治療が終わった後では、表情だけでなく、人柄までも明るくなったようでした。

全身麻酔での外科手術が必要となるような不正咬合については、「顎変形症（がくへんけいしょう）」の病名がつきます。

顎変形症の病名がつく不正咬合の治療については、あごを動かす外科手術だけでなく、通常の矯正治療についても「健康保険」が適用されます。

通常、すべての矯正歯科治療は、自費診療で行われます。しかし、「顎変形症」の病名がつく不正咬合の矯正治療では、診療に健康保険が適用されます。

あごの骨の形態や、その位置に著しい異常が認められる場合に「顎変形症」の病名がつきます。あごの骨の形態や位置に異常がある場合、そのヒトの容貌にも悪影響を及ぼします。

例えば「骨格性偏位」は、下あごの大きさが左右で極端に異なるタイプの顎変形症です。顔の非対称が目立つため、自分の容貌にコンプレックスを抱えているヒトも少なくありません。顎変形症の患者さんのもつ悩みは、深刻である場合が少なくないのです。

以前、フードをかぶったまま、矯正相談に来た女子高生がいました。彼女は、自分の顔が歪んでいることを非常に悩んでいました。なぜなら、同級生が彼女の顔のことを、頻繁にからかうからです。そのため、彼女は自分の顔を隠すために、フードをかぶるようになっていたのです。

全身麻酔を心配して、「外科的矯正治療」に両親は反対でした。しかし涙ながらに必死に説得して、彼女も外科的矯正治療をうけることができました。矯正治療を無事に終えた現在、彼女はフードをかぶらずに、自信をもって人前を歩けるようになりました。

あごの骨の異常を伴う不正咬合の治療では、「外科的矯正治療」が有効です。歯ならびや噛み合わせの問題だけでなく、あなたの顔の形態に対する悩みについても改善できる可能性が高いです。

また、あごの骨に異常を伴う不正咬合の治療においては、健康保険が適用となります。ただし、それは「顎口腔機能診断施設」の認定を受けている歯科医院に限定されます。

ただ実際には、大きな病院だけでなく一般の開業医の中にも、「顎口腔機能診断施設」の認定を受けているところが複数あるので安心です。

そのため、顎変形症の疑いがある方は、まずは顎変形症の診断ができる「顎口腔機能診断施設」で、矯正相談されることをオススメします。