「矯正治療によって、顎関節症(がくかんせつしょう)が発生したり、症状が悪化したりすることはない」というのが、現在の学会による結論です。
しかし、実際には、矯正治療を始めてから、顎関節症に症状を感じはじめる患者さんは、少なくないのです。中には、一時的に「口が開かない」「痛くて噛めない」など、強めの症状がでる患者さんもいます。
なぜ、このように矯正治療中に、顎関節の症状があらわれることがあるのでしょうか?
ここでは、矯正治療中に顎関節症の症状が発生したり、一時的に悪化したりする原因について説明していきます。
成長による影響
顎関節症は、もともと若い人、とくに女性では起こりやすいトラブルです。
そのため、この時期に顎関節症が発症した人は、矯正治療を行っていなかったとしても、顎関節症が発症していた可能性があると言えます。
そして、それは身体の成長期であり、顎関節も成長中であったことが原因ということができです。
なぜなら、このような成長期に発生する関節の痛みは、顎関節以外の関節でも、頻繁に認められる症状だからです。
たとえば、「膝(ひざ)」や「腰」の痛みです。成長期に膝や腰に痛みを感じるのは、成長に伴う痛みだけでなく、関節の構造が十分に完成していないからなのです。
そのため、成長中の関節は、非常にデリケートなのです。そして、わずかな変化や負荷にも順応できず、症状を感じることがあるのです。
歯ぎしりによる影響
歯ぎしりによって、顎関節症の症状が発生したり、悪化したりすることも解っています。
なぜなら、歯ぎしりは奥歯、つまり顎関節に最も近い位置に、極端に強い力を繰り返し加える動作だからです。
そのため、歯ぎしりが激しいと、顎関節にも過度の負担が生じてしまうのです歯ぎしりの原因は、主にストレスです。自律神経の不調和が原因で、歯ぎしりは起こります。
そのため、思春期や大きく生活環境が変わる時期は、歯ぎしりも増加しやすい時期ということができるでしょう。
さらに、このタイミングで矯正治療を行っているケースが多く、矯正装置によるストレスも追加されてしまいます。あなたの矯正治療中の顎関節症の原因は、思春期のストレスと矯正装置に対するストレスが、同時に原因となっている可能性があります。
顎関節の構造による影響
下アゴが小さいタイプの患者さんでは、顎関節の構造も骨格的に華奢(きゃしゃ)である可能性が高いです。
顎関節が華奢だと、顎関節の許容量も非常に少ないということができます。当然、許容量を超えるような負担がかかると、顎関節症の症状を発生しやすいと言えます。
これは、遠足のあとの膝の痛みに例えることができます。全身の骨格や膝の関節がしっかりとしたタイプでは、次の日に膝の関節が痛むということは起こりにくいでしょう。
しかし、全身の骨格が華奢で、膝も小さいタイプでは、次の日に膝が痛んだり、その痛みが続いたりするトラブルに悩まされることになるでしょう。
このように、関節の構造が小さいタイプでは、負担の許容範囲が狭いといえます。そして、下アゴもしくは顎関節が小さいタイプの患者さんの矯正では、治療中に顎関節症が発生する可能性が高いと言えます。
噛み合わせの変化による影響
矯正中に顎関節症が発症するのは、矯正治療を開始した時期に起こることが多いです。
なぜなら、これらの時期では、噛み合わせが大きく変化するので、今までと違う噛み方で食事するようになるからです。
それ以外にも、顎間ゴムを開始した時期も、顎関節症が起こりやすいといえます。下アゴから上アゴの装置に向かって、小さな輪ゴムを自分でかけるため、噛み合わせが大きく変化しやすいからです。
このように、突然違う噛み方を強いられると、顎関節症が発症したり、悪化したりする可能性があるのです。
これは、久しぶりに運動をした際の関節痛や筋肉痛に例えることができます。普段使っていない筋肉や関節を使った次の日から、しばらく筋肉や関節の痛んだ経験がみなさんあるはずです。
同様に、矯正で噛み合わせが急に変わることで、顎関節症が起こるのです。
まとめ
矯正治療中には、顎関節症が発生したり、一時的に悪化したりすることがあります。
これは矯正治療によって、顎関節が壊してしまったのではありません。
矯正治療中に顎関節症が起こった患者さんでは、噛み合わせの変化に適応できるだけの許容範囲がなかっただけなのです。
幸い顎関節症の症状自体は、あくまでも一時的で、徐々に寛解していくことが期待できます。矯正治療中に顎関節症が出てきた場合は、速やかに担当医に報告し、症状に合わせて矯正治療を進めるようにしてください。