「前歯の重なり」は、審美的にも、機能的にも重要な意味合いがあります。
そのため、どちらか片方の要件を無視して、前歯を並べることは望ましくないのです。
なぜなら、そのような不適切な前歯の噛み合わせでは、全体の歯並びや噛み合わせを良い状態で維持することができないからです。
歯列矯正を希望して矯正相談にくる患者さんの中には、「自分の前歯が、ひどく突出している」と強く思い込んでいる方がいます。
そのため、たとえば「切端咬合(せったんこうごう)」のような不適切な前歯の噛み合わせを、むしろ強く希望する患者さんも少なくないのです。
よって、ここでは、正しい前歯の噛み合わせと、不適切な噛み合わせについて説明します。
正常な前歯の被さり
望ましい上下前歯の重なりは、1〜5mmくらいです。なぜなら、1〜5mmの前歯の重なりが、審美的にも機能的にも、最も調和がとれた状態になることがわかっているからです。
ただし、矯正治療では、比較的浅めの仕上がり(または、前歯の重なりが少ない状態)を目指します。なぜなら、矯正治療を受けている患者さんの多くが、比較的浅い前歯の噛み合わせを希望しているからです。
一方、差し歯などの歯科治療では、比較的深めの仕上がり(または、前歯の重なりが多い状態)を目指します。なぜなら、差し歯治療では、審美よりも機能の方に重点を置くためです。
実は、上下の前歯がしっかり重なるようにして、下アゴを閉じる際、前歯にガイドされる格好にする方が、機能的には望ましいのです。
好ましくない前歯の噛み合わせ
浅い前歯の被さり
上下前歯の重なりが極端に少なく、先端同士が触れるような噛み合わせを、「切端咬合(せったんこうごう)」と言います。
切端咬合の状態だと、前歯の先端が磨耗したり、徐々に欠けたりしやすいため、歯にダメージが加わりやすいです。そのため、近い将来、審美的にも大きなトラブルを引き起こす可能性が高いのです。
とくに、歯ぎしりをする人では、すぐに自分の歯を壊してしまいます。角張った前歯になったり、極端に短い前歯になったりする心配が高くなるのです。
深い前歯の被さり
前歯の重なりが深い噛み合わせは、「過蓋咬合(かがいこうごう)」と呼ばれる状態です。
極端に前歯の噛み合わせが深いケースでは、下の前歯が完全に隠(かく)れてしまうこともあるのです。
過蓋咬合の一番の問題は、顎関節に大きな負担がかかりやすく、顎関節症(がくかんぜつしょう)のトラブルが発生しやすいことです。
前歯の重なりが大きいことで、下アゴの動きが極端に制限されたり、口を閉じる際、下アゴが奥に押し込められる格好になったりするためです。そして、それらのことによって、顎関節に過度のチカラが加わることになってしまうからです。
さらに問題なのは、過蓋咬合のタイプは もともと噛む力が非常に強いということです。噛む力が強すぎるため、顎関節に加わるチカラも通常よりはるかに大きくなってしまっているのです。
そのため、顎関節にも大きな力が加わらないようにするためには、下顎がスムーズに動くよう前歯の被さりを正常にしてあげる必要があるのです。
前歯が上下に接触しない噛み合わせ
前歯が上下に大きく離れている状態を、「開咬症(かいこう)」といいます。
開咬症では、発音が舌っ足らずで不明瞭になりやすいことや、食べ方が汚くなりやすいことから、敬遠(けいえん)されがちです。
また、開咬症を放置すると、奥歯を壊しやすかったり、顎関節症が悪くなったりするなどの深刻なトラブルが発生してきます。そのため、開咬については、早めに矯正治療を開始することが望ましいといえます。
しかし、開咬症は、噛み合わせ異常の中でも、治療が最も厄介なものの1つです。なぜなら、治療が難しいだけではなく、治療した状態を維持することも非常に難しいからです。
そのため、矯正に必要な治療期間も、治療後の噛み合わせの安定をはかるための期間も、通常より長く必要ということができます。
まとめ
上下前歯の重なりは、審美的にも機能的にも非常に重要です。
なぜなら、審美的にも、機能的にも良い状態を維持するためには、前歯に正しい重なりをつくってあげることが不可欠なのです。
よって、矯正治療を考えている方は、前歯の噛み合わせについて配慮し治療を行う歯科医院を選択することが大切です。
そして、そのような適切に治療を行う歯科医院を見つけたうえで、矯正相談に行くようにしてください。