矯正装置を装着すると、「むし歯になる危険性が高くなる」ということについては、すでに多くの方が御存知のことと思います。その最大の原因となるのが、矯正装置をつけることで、歯磨きが困難になることです。
しかし、実は、歯磨きが困難になるという理由だけで、むし歯のリスクが増しているわけではないのです。矯正治療中には、その他、複数の要因が重なることで、むし歯のリスクが大きく増加しているのです。
ここでは、矯正治療中に、「むし歯の発生リスク」が増加する原因について説明します。
むし歯のリスクが高くなる理由
軟食の影響
矯正治療中にむし歯のリスクが悪化する原因として、最初に挙げられるのが「軟食(なんしょく)」です。
矯正装置を歯につけてチカラを加え始めると、しばらくの間は硬いものを噛むことができません。なぜなら、矯正でチカラを加え始めたばかりの歯で噛むと、強い痛みが発生するからです。
そのため、しばらくの間、やわらかい食事をとる必要があります。実は、この事が、虫歯のリスクを高める大きな要因になりえるのです。
やわらかい食べ物は、歯や矯正装置に粘着しやすく、歯ブラシで落としにくいのが特徴です。一方の噛み応えのある食べ物では、歯や矯正装置に粘着しにくいだけでなく、歯の歯垢を自然に落とす役割もあります。
このように、やわらかい食べ物では、この歯の自浄作用がうまく機能することができないのです。そのため、矯正治療を開始した際には、いつまでもやわらかい食事を続けるのではなく、できるだけ早い時期に、通常の食事に戻すことが大切なのです。
唾液の影響
矯正治療中にむし歯が発生しやすい原因として、次に挙げられるのが「唾液(だえき)」についてです。
多くの人がすでに御存知のように、唾液にはむし歯菌の酸を中和したり、酸に溶けた歯の表面を再石灰化したりする役割があります。虫歯予防にとって、唾液働きは必要不可欠なのです。
しかし、矯正治療中には、この唾液による予防効果が十分に得られない可能性が高いのです。その原因として、大きくは2つのことが考えられます。
1つ目は、唾液の分泌が少なくなるということです。唾液の分泌は、主に、噛むことで活発になります。
しかし、矯正治療を開始したばかりでは、強く噛むと痛みを感じるため、しっかり噛んで食べることが困難です。そのため、唾液が十分に分泌されず、量が不足した状態になってしまうのです。
2つ目の原因として挙げられるのが、矯正装置による影響です。矯正治療中は、全部の歯にブラケットなどの矯正装置が、多く装着してあります。
そのため、矯正装置が障害になって、唾液がスムーズに流れることを妨害してしまうのです。そして、唾液の酸を中和するという効果や、酸で溶けた歯を再石灰化するという効果が十分に発揮できない結果になってしまうのです。
細菌の変化
矯正治療中にむし歯の危険が増加する原因として、最後に挙げられるのが「むし歯菌の変化」です。
矯正装置をつけると、むし歯菌の種類が大きく変化する可能性があるのです。実は、むし歯菌にも、実は善玉菌(ぜんだまきん)と悪玉菌(あくだまきん)とがあることが分かっています。
善玉菌は、歯の表面にくっつきにくい菌ということができます。一方の悪玉菌は、粘着性があって、しかも強い酸を放出する菌です。この悪玉菌が多い状態になると、むし歯の危険性が高くなってしまうのです。
この悪玉菌が増える要因としては、いくつかのことが挙げられます。たとえば、何日も古い歯垢が残っていること、飲食回数の増えること、やわらかい食べ物や、砂糖を多く含んだ食べ物を頻度に食べることなどです。
矯正装置がついた状態だと、悪玉菌が増える環境になりやすいことが分かると思います。しかも、一旦、悪玉菌が定着すると、改善しにくいことが分かっています。食生活を改善したり、歯磨きを頑張ったりしたとしても、口の環境が改善するためには半年以上がかかることが分かっています。
そのため、矯正治療を開始した段階から、口の中の環境を悪化させないように努めることが非常に大切なのです。
まとめ
矯正治療中は、むし歯のリスクが極端に高まるのは事実です。ただし、普段の歯磨きを適切に行ったり、歯科医院での管理をしっかりと行ったりすることで、矯正治療中のむし歯の発生を確実に防ぐことができます。
よって、矯正治療を考えている方は、治療中のむし歯の管理や指導ができる歯科医院を見つけることが大切です。
そして、そのような安心して治療を受けることができる歯科医院を選択したうえで、矯正相談に行くようにしてください。