矯正治療を行う際にも、当然、いくつかのリスクがあります。そのリスクの1つに、「歯ぎしり」があります。ただし、これは、普通の歯ぎしりではありません。ある日、異常なほど激しい歯ぎしりが、突然始まることがあるのです。
そして、短期間のうちに、奥歯や前歯が原形をとどめないくらい歯が磨耗(まもう)してしまうのです。そのため、場合によっては、矯正治療を中断せざるを得ないケースもありうるのです。
ここでは、矯正治療中に突然発生する危険性がある「異常な歯ぎしり」についついて説明します。
異常な歯ぎしりの原因
歯ぎしりの原因は、一般的に、自律神経の不調和であることが分かっています。自立神経の不調和とは、つまり「ストレス」のことです。
ストレスが原因となって、歯ぎしりは発生しているのです。矯正治療中に突然発生する激しい歯ぎしりについても、やはり原因は「ストレス」であると考えられます。
ただし、矯正治療中に見られる異常な歯ぎしりは、通常の歯ぎしりとはまったく異質なものです。そのことから、矯正治療中に起こる異常な歯ぎしりの原因が、単なるストレスなのではなく、矯正治療および矯正装置があることが大きく関わっていると推測できます。
矯正装置がついていること、および歯に絶えず矯正力が加わっていることが、尋常ではないほどのストレスになりうるということです。
異常な歯ぎしりが発生した際の対処
歯の磨耗を防ぐ
歯ぎしりによっておこる歯の磨耗を、効果的に予防する方法の1つとして、マウスピースを使用することが挙げられます。ただし、ブラケットやワイヤーなどの矯正装置がついている状態で、マウスピースを使用することは困難です。
そのため、私のクリニックでは、奥歯にレジンを盛り足す方法を採用しています。レジンとは、むし歯の穴をふさぐ際にも使用することができるプラスチック様の材料のことです。
その材料を、奥歯に盛り足すことで、全体の噛み合わせを高くし、上下の歯が接触しないようにするのです。そうすることで、歯と歯が接触し磨耗することを回避することができるのです。
しかし、この噛み合わせを高くする方法は、違和感を強く感じる方法です。そのため、たとえば噛み合わせの変化に敏感なタイプや、顎関節症の症状が強くあるタイプの患者さんには行うことができないのです。
マウスピース矯正へ変更
矯正治療中に異常な歯ぎしりが始まった際、最近、私のクリニックでオススメしているのが、「マウスピース矯正」への変更です。
マウスピース矯正とは、ブラケットやワイヤーなどの器具を用いず、マウスピース様の矯正装置を用いて行う治療方法です。代表的なものとして、「インビザライン®」や、「クリアアライナー®」などがあります。
つまり、異常な歯ぎしりが突然始まった場合、ブラケットとワイヤーによる矯正を中断し、マウスピースタイプの矯正装置を使った歯列矯正に完全移行するのです。
この方法では、マウスピースが矯正装置としての役割だけでなく、歯の磨耗を防止する装置としても機能するため、異常な歯ぎしりがある際にも、安全に治療をすすめることができるのです。
まとめ
矯正治療中のリスクの1つに、「突然発生する異常な歯ぎしり」があります。放置すると、短期間のうちに、歯を大きく削ってしまう心配があるので注意が必要です。
そのため、矯正治療を考えている方は、矯正治療中に問題が発生しても即座に適切な対応がとれる歯科医院を、選択する必要があります。
そして、そのような安心して治療を受けることができる歯科医院を見つけたうえで、矯正相談に行くようにしてください。