「歯周病(ししゅうびょう)」とは、細菌感染によって歯を支える骨の一部が、少なくなってしてしまう疾患です。骨が極端に少なくなると、歯が動揺したり抜け落ちてしまったりする危険性もあるのです。
大人になって歯列矯正を行う際には、この歯周病が大きく関係してきます。なぜなら、矯正治療中に、歯周病が発症したり、悪化したりしてしまうケースがあるからです。
あるいは、重度の歯周病があるために、むしろ積極的に矯正治療を開始する場合もあります。なぜなら、歯周病をもつ患者さんに矯正治療を行うことで、歯周病の進行を食い止め、歯の寿命を延ばすことができるからです。
ここでは、歯周病の進行度に応じた矯正治療での対応について説明します。
歯周病の進行度と、矯正治療について
歯周病が軽度のケース
軽度の歯周病とは、歯を支える骨の3分の1ほどがすでに失われた状態のことです。
- 歯ぐきから出血する
- 歯ぐきの色が悪い
- 口臭がする
あなたに以上のような症状があるなら、すでに初期の歯周病があるのかもしれません。
初期の歯周病がある場合でも、矯正治療は通常どおり行うことができます。できれば矯正治療を始める前に、歯周病治療を済まておくことがオススメです。なぜなら、歯石、または細菌感染が多く残った状態で矯正装置をつけると、矯正治療中に歯周病が悪化する心配があるからです。
そのため、歯周病の心配がある場合、矯正装置をつける前に歯周病治療を済ませておいたり、矯正装置が口の中についている間は、歯周病の管理を徹底的に行ったりすること大切になるのです。
歯周病が中等度のケース
中等度の歯周病とは、歯を支える骨の3分の1以上がすでに失われた状態のことです。
- 疲れると歯ぐきがはれる
- 歯と歯の間に隙間がある
- ひどい口臭がする
あなたに以上のような症状があるなら、すでに中等度の歯周病があるのかもしれません。
中等度まで進行した歯周病を放置して、矯正治療を行うことはできません。矯正装置をつけはじめる前に、必ず歯種病の治療を開始する必要があります。なぜなら、中等度の歯周病がある状態で矯正装置をつけると、歯周病が急激に悪化するからです。
わたしのクリニックでは、中等度の歯周病をもつ患者さんにたいしては、当然、矯正治療を開始する前に歯周病治療を行います。そして、まもなく、歯周病治療と同時進行で矯正治療も開始します。
なぜなら、矯正治療と歯周病治療を同時に行うと、歯ぐきや骨の反応が非常に良いからです。これは、矯正治療で歯に加えるチカラによって、歯根の周りにある細胞がうまく活性化するからだと考えられます。
このように、歯周病が進行したケースでは、歯周病治療と同時に、矯正治療を行うことが非常に有効と考えられるのです。
歯周病が重度のケース
重度の歯周病とは、歯を支える骨の半分以上がすでに失われた状態のことです。
- 歯ぐきから膿(うみ)がでる
- 前歯が傾斜してくる
- 歯が大きく揺れる
あなたに以上のような症状があるなら、すでに重度の歯周病があるのかもしれません。
重度歯周病患者の場合、矯正治療を歯周病治療と同時進行で行うだけでなく、矯正治療をシンプルに短期間で終了することが大切です。なぜなら、矯正装置をつけた状態で、重度の歯周病の悪化を防ぐことはむずかしいからです。
矯正治療の治療期間を短くするには、差し歯治療(または、かぶせ物治療)を併用することが効果的です。つまり、矯正治療では大まかな歯の位置の調整だけを行い、最終的な上下の歯の噛み合わせは、差し歯で整えるのです。
このように全体を差し歯にすることで、矯正装置をつける期間を短くできるだけでなく、歯の揺れを少なくすることができます。そのため、しっかりと噛めるようになるだけでなく、歯周病の悪化を予防することもできるようになるのです。
まとめ
矯正治療で、歯並びや噛み合わせを整えることは、歯周病の悪化を防ぐうえで非常に有効です。
しかし、進行した歯周病がある方の矯正治療が、どの歯科医院でも受けることができるとは限りません。なぜなら、歯周病治療と矯正治療、場合によっては差し歯治療を、同時進行で行うことができる歯科医院は非常に稀(まれ)だからです。
そのため、進行した歯周病をもっている方は、歯周病治療や差し歯治療もしっかりできる歯科医院を、選択することが大切です。
そして、そのような総合的な治療を受けることができる歯科医院を見つけたうえで、治療相談に行くようにしてください。