小児期の受け口(または、反対咬合)は、早い段階で改善しておくことが非常に大切です。なぜなら、受け口の噛み合わせの状態は、下アゴを拡大したり前方に成長誘導したりするための矯正装置を、24時間装着していることとまったく同じだからです。
そのため、お子さんの受け口を放置すると、お子さんの下アゴが極端に成長し、受け口の問題が深刻化する心配があるのです。
小児期の受け口治療の方法には、複数の方法があります。そのため、矯正治療を開始する前には、精密検査を行い、適切な治療方法や装置についてしっかり検討することが重要なのです。
ここでは、お子さんの受け口を治す装置の中でも、リンガルアーチを用いて治療する方法と、その治療が有効なタイプにについて説明します。
リンガルアーチとは
リンガルアーチとは、1本の針金を歯の内側を沿わせた格好で用いるシンプルな矯正装置のことです。この時に用いる針金のサイズは、0.9mmです。これは、他の矯正装置と比較しても、非常に大きいサイズの針金です。
そのため、リンガルアーチ自体は、非常に強固で、しっかり安定している装置です。ただし、リンガルアーチを用いる治療では、この主線となる針金に、0.5mmの補助弾線を取り付けて治療を行います。
たとえば、受け口の治療においては、補助弾線を前歯の裏側付近に取り付けます。そして、その補助弾線の弾性力(だんせいりょく)を利用して、前歯を裏側から前方に押し出すようにするのです。
そのようにすることで、前歯を前方に押し出し、効果的に前歯の噛み合わせを改善することができるのです。
リンガルアーチによる治療が有効なタイプ
リンガルアーチを用いる治療が有効なのは、骨格的に異常がないタイプの受け口です。つまり、アゴ骨のサイズや、位置関係に問題がないタイプの受け口ということができます。
このような骨格的に異常がないタイプの受け口治療では、上アゴのサイズを大きくしたり、上アゴの位置を前方に引っ張り出したりする必要はありません。単に、前歯の角度を修正するだけで、十分に噛み合わせを改善することが可能なのです。
中でも、受け口の噛み合わせが1〜2本の前歯に限局して発生しているケースでは、とくにリンガルアーチによる治療が有効と言えます。なぜなら、リンガルアーチを用いる方法では、補助弾線を任意の位置に取り付けたり、同時に複数を取り付けたりすることができるからです。
そのため、特定の歯にのみチカラが加わるよう調整したり、それぞれの歯を異なる向きに動かしたりすることができるからです。
リンガルアーチ治療の利点
シンプルな装置
リンガルアーチは、太い主線と細い補助弾線からなる非常にシンプルな装置です。そのため、装置をつけた際の違和感が、非常に少ないことが特徴です。
そのため、矯正治療を開始した際でも、食事がしにくかったり、しゃべりにくかったりするトラブルが起こりにくいのです。
弱いチカラで治療
リンガルアーチを用いる方法では、補助弾線を用いて、それぞれの歯に合ったチカラを個別に加えることができます。そのため、歯に加えるチカラは極端に大きくなったりせず、個々の歯に合ったチカラをそれぞれ加えることができるのです。
また、弱いチカラで歯を動かすため、治療中にお子さんが感じる歯の痛みも、最小限におさえることができるのです。
装置が目立たない
リンガルアーチは、歯の裏側につける装置です。そのため、周囲の人にはほとんど気づかれることなく、矯正治療を行うことができます。
そのため、矯正装置が見えてしまうことを心配するお子さんとっても、非常に受け入れやすい矯正装置であるということができます。
リンガルアーチ治療の欠点
精密な調整ができない
リンガルアーチは、精密な歯の動きの調整には不向きです。たとえば、受け口の噛み合わせを改善した後に行う、前歯のすき間を閉じたり、キレイに整列したりする行程についてです。
そのため、リンガルアーチだけで最終的に仕上げようとすると、治療がスムーズに進行しないことがあるのです。よって、前歯の噛み合わせを改善した後の最終的な仕上げの段階では、別の矯正装置に変更する必要があるのです。
食べ物がからむ
リンガルアーチは、歯の裏側につける装置です。そのため、食材によっては、装置にからみやすい食べ物があります。たとえば、鍋料理に使用するネギや、ハクサイです。
これらの食材は、リンガルアーチにからみやすく、舌で簡単に取り除くことができません。そのため、食事を一旦中断して、引っかかった食材を取り除く必要があるのです。
リンガルアーチで、子どもの受け口治療を行った事例
以前、わたしが運営するクリニックに、小学1年生の男の子が矯正相談にきました。永久歯に生え代わりはじめた前歯に異常があり、そのことに気づいた母親が心配して連れてきたのです。
口の中を観察すると、男の子の前歯は前後逆の噛み合わせになっていました。そのため、わたしは、リンガルアーチを用いた矯正治療を提案することにしました。
なぜなら、精密検査を行った結果、男の子の骨格には全く異常がないことが分かったからです。そのため、「前歯の角度だけを修正すれば良い」と判断したからです。
検査結果、およびリンガルアーチによる治療方法について説明すると、男の子はすぐに矯正治療を開始することを決心しました。
実際に、リンガルアーチを用いて治療を行った結果、男の子の噛み合わせを、3ヶ月ほどで改善することができました。治療中の痛みもほとんどなく、また、短期間で前歯の噛み合わせが改善できたことで、男の子も母親も非常に喜んでいます。
まとめ
小児期の受け口の噛み合わせは、早期に改善する必要があります。なぜなら、受け口の状態のまま放置すると、下アゴが極端に伸びて、深刻な状況になる心配があるからです。
よって、お子さんに受け口が見つかった場合は、できるだけ早く専門家の診察を受けることをオススメします。ただし、その際は、子どもの歯並び育成において実績のある歯科医院を必ず選択したうえで、相談に行くようにしてください。