せっかく矯正治療を行っても、満足のいく結果でなかったり、すぐに崩れたりしてしまっては何のために治療したのか解りません。そのためには、単にキレイな状態にするだけでなく、同時に機能的にも十分な能力を発揮すること、長期間安定する状態をつくってあげることが必須です。キレイな印象を与える歯並びも、良く機能する噛み合わせも、そして長期間安定させるためにもクリアすべきゴールがあります。
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ここでは簡単なチェックポイントについて紹介します。これを知っておくことで、治療計画への理解、ゴールまでの距離が明確になりやすいと思います。そして、納得して治療が受けられたり、途中の不安が軽減されたり、担当医とのより良い関係を築けることを希望しています。噛み合わせの望ましい状態つまり矯正治療のゴールについて理解しておくことは非常に大切なのです。
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矯正治療の最初のゴールは、デコボコのない連続性のある状態です。整列した歯並びはもちろん美しいです。キレイに並んだ配列では口腔清掃が行いやすいということができます。さらには唾液が全体に流れやすい、行き渡り易いという利点もあります。これらは、当然虫歯予防や歯周病予防、口臭予防のためには最適な環境と言えます。
歯の頭の部分は平坦ではありません。よく杵(きね)と臼(うす)に例えられますが、食べ物をよく磨りつぶすことおができるようにデコボコがある状態になっています。目指すべき噛み合わせの状態もしくは良く機能する状態というのは、そのデコボコつまり山の部分が谷の部分へキレイにはまり込む状態です。実際には、下顎の小臼歯の尖頭が上顎の歯と歯の間に入りこむ格好になります。 凸(デコ)と凸が干渉する状態では違和感も強いですが、噛みにくい、早期に摩耗しやすいなどの問題が出てきます。
前歯の噛み合わせも重要な指標です。着目するべきは、下顎犬歯の尖頭の位置です。この位置がキレイにきまると、前歯全体がよい重なり具合におさまります。上下前歯の先端同士が接するような噛み方は決して望ましい状況ではありません。簡単に摩耗してしまう恐れが強いのです。上顎前歯の裏側を3等分した中の中央の帯のどこかに下前歯の先端が噛みこんでくるようにします。ある程度重なりがあって、下顎がガイドされる必要があるからです。
見た目の美しさに直接関係はしませんが、長期間にわたって噛み合わせを安定させるためには奥歯にかかるチカラの方向は非常に重要です。噛み合わせが長期的に安定するためには、噛む時のチカラが常に垂直方向に加わり続ける必要があります。斜めにチカラがかかると徐々に歯が傾斜したり、前歯を突き上げてきたりするからです。歯周病の患者さんの歯並びやかみ合わせが大きく壊れてくるのは、同様に奥歯が倒れて噛む力を支えきれなくなったためです。
歯列矯正で重視するのは口の中だけではありません。これには前歯の位置と角度が関係しています。単に歯を並べるスペースがあるかどうかだけで抜歯するか抜歯しないのかを判断するのではなく、口元の調和を考えて抜歯もしくは非抜歯を判断するのです。Eラインが整った状態、鼻と顎の先(オトガイ)を結ぶ線に口唇にわずかに触れるくらいの位置関係が調和のとれた美しい状態と言えます。鼻の高さ、顎先のカタチが大きく影響しきます。前歯の変化だけでなく、場合によっては鼻や顎先へのアプローチも考慮しない行けない場合があります。
これらの5つのゴールは全部をバランスよく仕上げることが大切です。ある特定の1つポイントだけに固執しすぎて、全体のバランスが悪くなしてしまってはいけません。審美性・機能性・安定性が達成できないということになってしまうからです。たとえば、キレイなEラインを作りたいために「もっと、もっと前歯と下げたい」と望む女性は多いです。しかし、その希望がが他のゴールの達成を大きく妨げてしまう場合があります。その際はまず、5つのゴールをバランスよく達成することを重視して、その他の鼻や顎先を変化させるといったそれ以外の処置を考える必要があります。
このチェックポイントを知ることで治療前であれば治療の難易度を、矯正治療の途中であればゴールまでの距離を鏡さえあれば簡単に知ることができます。そのことで、担当医とあなたの治療中のコミュニケーションがとりやすくなって、治療自体もスムーズに完了する一助になることを希望しています。