「マウスピース型矯正装置」は、お子さんの出っ歯(または、上顎前突症)を効果的に治療することができる矯正装置です。
この装置の最大の特徴は、お子さん自身で取り外しができるということです。 そのため、食事の際にも、口の中に装置がない状態で、普段通り食べることができますし、歯磨きの際にも、装置を外した状態で、清掃することが可能です。
このように、簡単に取り外しできる装置であるため、小さなお子さんにとって負担が少なく、比較的受け入れやすい矯正装置ということができるのではないでしょうか。
しかし、一方で、取り外しが簡単にできるという特徴から、お子さん自身の努力や協力が必要であったり、無意識のうちに外れたりするなどの問題も起こってきます。
ここでは、マウスピース型矯正装置を「長時間はめていられない」、もしくは「寝ている間に、装置がはずれる」などというお子さんのために、マウスピース型矯正装置を上手に使う方法について説明します。
マウスピース型矯正装置が外れる原因
「マウスピース型矯正装置が、寝ている間に外れる」、もしくは「長時間、はめていられない」という問題には、大きく2つの原因があることが考えられます。
最初に挙げられるのが、「唾液(だえき)の分泌」の問題です。マウスピース型矯正装置は、他の矯正装置と比べても、かなり大き目の矯正装置です。そのため、口の中にいれると、舌や頬などの粘膜を刺激することになります。
そして、口の中の粘膜を刺激した結果、自律神経が反応し、多量の唾(つば)が分泌されるようになるのです。更に、マウスピース型矯正装置を装着した状態では、お子さんは唾をスムーズに飲み込むことができません。
そのため、お子さんの口の中には、多量の唾がたまったままの状態になり、その状態に不快感を感じてしまうのです。
次に挙げられるのが、「鼻呼吸(はなこきゅう)」の問題です。実は、マウスピース型矯正装置を装着すると、お子さんは口で息をすることができません。
なぜなら、口で呼吸することを妨害し、鼻で息することを無理強いするようにデザインしてあるからです。出っ歯のお子さんは、普段、口をポカンとあけている状態だったり、口で息をする習慣だったりしているケースが多く、本来、鼻で息をすることが苦手なのです。
マウスピース型矯正装置は、鼻呼吸の習慣を獲得できるようにすることも意図して設計してあります。なぜなら、口を積極的に閉じることで、前歯の突出を防止することができるからです。
ただし、このように口呼吸を邪魔し、口呼吸を強いるようにしてあることが、お子さんを息苦しくしてしまっているのです。
マウスピース型矯正装置に慣れる方法
マウスピース型矯正装置を使い始めたばかりでは、唾液による違和感と、鼻呼吸による息苦しさから、「長時間、装置をはめていられない」、または「寝ている間に、装置がはずれている」と状況になりがちです。
しかし、ほとんどのお子さんのケースで、これらの問題は解決され、マウスピース型矯正装置を適切に使えるようになります。ただし、そのためには、少しの忍耐とトレーニングが必要になります。
まず、唾液が多く分泌する問題に対しては、「慣れ」が最も重要です。実は、総入れ歯をはじめて装着する高齢の方でも、同様の問題が起こります。つまり、総入れ歯を入れると、唾液が多量に出はじめるため、違和感を強く感じてしまうのです。
しかし、その総入れ歯も1週間ほどはめた状態でいると、違和感は徐々になくなります。なぜなら、慣れることで、自律神経への刺激がなくなり、唾液の分泌量が正常に戻るからです。
マウスピース型矯正装置についても、同様のことが言えます。マウスピース型矯正装置を長い時間はめる訓練をすることで、唾液の分泌は徐々に減少し、不快感もなくなってくるのです。
わたしのクリニックでは、お子さんがマウスピース型矯正装置に慣れるまでは、夕方から使い始めるよう指導しています。ただし、訓練当初は、唾をすすり上げたり、テレビを見ている際に唾がこぼれたりして大変かもしれません。
しかし、このように意識のある状態で、長い時間マウスピース型矯正装置を装着できるように訓練することで、一刻も早く装置に慣れることができるようになるのです。
次の鼻呼吸の問題については、ある程度のトレーニングが必要です。ただし、本当に簡単なトレーニングです。たとえば、「鼻で深呼吸する行為を、1日に数回行う」、もしくは「日中も、鼻で息することを意識する」だけでよいのです。
このように簡単なトレーニングでも、鼻に空気を頻繁に通すことによって、鼻腔が徐々に広がることが分かっています。そのため、あせらずコツコツとトレーニングを続けることが大切です。トレーニングを継続することで、鼻での呼吸がスムーズに行えるようになるはずです。
また、この鼻呼吸のトレーニングに対しても、マウスピース型矯正装置を夕方から装着する習慣は非常に有効です。なぜなら、マウスピース型矯正装置を装着すると、口で呼吸することが難しくなるからです。そして、積極的に鼻で息することを強いられる格好になるからです。
ある程度、鼻で呼吸がスムーズにできるようになった際は、さらに「就寝時に、口にテープを貼る方法」を追加すると良いでしょう。口呼吸の習慣だったお子さんは、無意識になると、どうしても口が開いてしまう傾向があります。そのため、口唇をテープで貼りつけることで、就寝時にマウスピース型矯正装置が外れないようにするのです。
まとめ
マウスピース型矯正装置は、矯正装置の中でも比較的大きな装置です。そのため、治療しはじめたばかりでは、思うように使用することができず、苦戦するお子さんも少なくありません。
しかし、毎日少しづつ使用時間を増やすように頑張ったり、鼻で息するトレーニングを継続したりすることで、必ず使用できるようになるはずです。
よって、マウスピース型矯正装置に苦戦している方、もしくは、これからマウスピース型矯正装置を考えている方も、あせったり、投げ出したりせず、徐々に慣れるようにしてください。きっと、周囲のお子さんと同じように、使えるようになるはずです。